アリスのまったり異世界開発 第一話 異世界と交通事情
- 結城リノンが書きました。
- 2019年1月7日
- 読了時間: 8分
異世界に来たとはいえ、有須は未だ王女の城から一歩もでていなかった。というより、召喚された直後に男性ということが城中に知れ渡り、ひと目見ようとメイドから女性騎士などが、集まってきていた。
「あれが、うわさの?」
「そうみたいです。でも、見た目は……」
応接間で会談していた有須とアリッサ。そしてクレスティン。そして数人の兵士が護衛していたが、その兵士すら女性の兵士である。そんな女性だらけの国に来てしまった有須は、早々にとんでもない所に来てしまったことに気がつく。
『本当に、女性しかいない……』
『装備もしっかりと胸のプレートが曲線になってるし。』
「それでだが……」
「は、はい。」
王女はなにを考えているのか、もじもじしだしどう言うべきか迷っている様子だったが、その表情が次第に赤面をしていることから、良からぬことなのは想像に難くなかった。
「ほ、本当に男性なのか、確かめさせてくれないか?」
「はぁ?」
「その、歴史書でしかみたことがないし、それにこの国はみての通り女性しかいないのだ」
「それに……」
「それに?」
「わたしの後継者に関することでもあるので……その……」
「後継者?」
「いいから。やれっ!」
「はっ!」
アリッサの掛け声によって、傍に控えていた騎士が有須の両側をかかえる形で、ホールドすると、完全無防備になる有須。そして、確かめるのはやはり、クレスティンだった。
「あ、あの。どうしても……?」
「はい。王女の命令なので。確かめさせてもらいます。」
両脇を抱えられた有須に、じわりじわりとクレスティンが距離を縮めていく……そんな様子を、興味を隠しきれないアリッサは両手の指の隙間からチラチラと、みたりみなかったりを繰り返していた。
「あ、あの。男ですから。別に確かめなくても……」
「そんなことでは、いけません。しっかりと確認しないと。」
それでも、有須は一応男ということもあり、両脇を武装しているとはいえ、女性に抱えられていることや、頬を高揚させたクリスティンが有須のズボンのチャックを下げようと、迫ってきていることで否応無しに反応をしてしまう。
「少しだけですから。少しだけ……」
ジィィィィィ!
「こ、これは!」
「!!!!」
「はっ!」
たまたまというか、両脇で抱えていた騎士も、見えてしまったらしく……一気に赤面をし、頭から湯気がでてしまっていた。そうして、しばらくの沈黙の後、チャックをもとに戻したクリスティンが、振り返ってアリッサに報告する表情には……
「アリッサ様。うん!」
「その表情は。そうだったのね。まさか……」
「三人共が出すとは思っていなかったわ……はぁ~」
有須を両脇で抱える騎士。そして、クリスティンの小さな鼻からは、バラのような鮮血が滴り落ちていた……それから、異世界のままだと目立ってしまうとのことで、王国にある衣装へと着替えることになったが……
「まいったなぁ~」
「どうかしたんですか?」
「う~ん。女性用しかない。」
「えぇっ。」
よく考えたら当たり前のことでもある。アリッサが女王を務めるクレリアン王国は、若い男性がいなくなって久しいため、街の衣服を作る仕事人は、需要のない男性物を作るよりも、装飾や女性らしい防具を作るための技術が向上していた。
そのため、国内で作られているもののほとんどが、女性ものの衣服しか無いため、異世界から来た召喚者でもある有須は、必然的に女性物を来なければいけなくなってしまっていた。
幸いなことに、有須が華奢で男のガッシリとした体でなかった事が幸いし、国内にある女性物が、男性の有須でも着ることができてしまっていた。
「それで、有須というのは名前なのだろ?」
「はい。名字が成舞(なるまい)です。」
「そうか。こちらでは、男子という存在だけで稀有な目で見られることが多い。」
「はい。女性しかいないのですよね。」
「うむ。まして、この国の女性は男に飢えている。そのため。男子の確認をするだけであの有様だ。」
「あぁ。」
先ほどの両脇を抱えられ、性別を確認されたことを思い出していた。有須は抵抗こそしてはいないものの、好奇心旺盛のクリスティンに触発される家のように、お抱え騎士までもが、鼻から鮮血をだし鼻にティッシュを詰めた状態になっていた。
「ましてだ、男性ということがバレてしまうと、貴殿に身の危険が及ぶ心配があるのだ。」
「えっ?」
「飢えているのは、先にも話したとおりだ。そんなメスの集団に、一匹のオスを放り込んでみろ。想像に難くない。」
飢えた女子は、手を変え品を変え男子を追いかけだすと、下手したらデモと変わらない状況になってしまう。まして、王女が若い男子を抱え込んでるなんということが知れれば、それこそ暴動に繋がってしまう。
「なるほど。」
「だから……」
「だから?」
「こちらでは、女性のアリスとして生活してくれないか?」
「そうだなぁ。名字が成舞だったか、そうだ。アリス・ナリミというのはどうだ?」
「えぇぇぇぇぇっ!」
そして、アリスとなった有須は用意してあった女性用のスキニーパンツを履き、クレスティンの案内のもと、城内を散策することになった。
王女ということもあり、私服で歩いても周囲から親しみを込められた声をかけられる。人望があり、それでいて美しさも兼ねていることで、より魅力が引き出されていた。
アリッサのクレリアン家の率いる王国は、広大な領地と作物に恵まれ北側を高い山脈、南側を広大な領地と海に面した国土で、魚介類から小麦などの耕作類。そして山脈側からは、山の幸と豊富な資源に恵まれた土地にあった。
交通の要所でもあり、近郊の都市との交易も栄え外貨獲得も国の命題となっていた。そんな中、交通量が増え国内の道路という道路は渋滞の嵐。怒号が乱れ飛ぶ事態になっていた。
交通システムのひとつとして、魔術を利用した交通システムが有りはするものの、うまく機能しておらずに支障をきたしていた。そして、主な移動手段は馬車であることもあり、移動するにも一苦労なのも苦労する一端となっていた。
「あれ。あの書籍……」
「あぁ。あれは……」
アリスが目に止めた書籍の表紙には、アリッサの姿がデカデカと表紙に飾られていた。近くに寄ってその本を手に取ると、店主がよほど嬉しかったのか。アリスに声をかけてきた。
「あんた。お目が高いね~これはね、王女様の写真集で……」
「写真集?」
「そうさね。その美貌とかっこよさで、お見合い話がつきないって話だよ。」
「へぇ~」
城内を散策する前に、アリスは男性であることを悟られないために、喉に特殊な魔法コードを埋め込むことで、声を自動で相応な女性に聞こえるように、調整していた。
そのおかげか、こうして女性の格好をして城内の店主と会話をしても、違和感を感じさせないようになっていた。
「どうだい?」
「は、はぁ。」
「あ、あの。店主。」
「あら、これはこれは、王女様じゃないかい。おや。ということは、お付きの子かい?」
「えぇ。まぁ。そんなものです。街の案内をと。」
「あらそうかい。しっかりとお仕えするんだよ。あんた。」
「は、はい。」
店主の雰囲気も、街の雰囲気もいきいきとした人々で溢れかえって市場も活気づいていた。それから、少し移動するとその活気に溢れた声が、今度は怒号へと変わっていた。
「とっとと、行ってくれないか?」
「こっちは、先がつっかえてるんだい!」
「アリッサさん。これは……」
「アリッサでいいよ。互いに先に行きたいから、もめてしまう。」
「なるほど……」
そこでは、一応の交通システムは可動しているものの、互いに譲り合う気持ちを持ってはいるものの、それが噛み合っておらずに交通の流れを阻害してしまっている。その結果として、怒号が飛び交う状況に陥っていた。
アリスがみていて気がついたのが、荷降ろしをしている店主の姿だった。大きな荷物をいとも簡単にヒョイッと持ち上げ店へと運びこんでいた。アリスは、状態を聞くためにその店主のもとへとかけより、手伝いを始めていた。
「お、おい!アリス。」
「お手伝いします。」
「おやっ。いいのかい?」
「軽いものなら、運べるので……」
「そうかい。じゃぁ。お願いするよ。」
アリスの行動力には、アリッサも舌を巻くほどで、護衛という一面もあったアリッサを他所に、どこえでもずんずんと行ってしまうので、護衛泣かせといった状況になっていた。
アリスが手伝い始めたことで、アリッサも必然的に手伝うことになっていたことで、その姿を確認した店主は、申し訳なさそうな表情をしながらも、なんとか積み下ろしを完了するのだった。
「すみません。王女様にまで手伝ってもらうとは……」
「いえ。良いのです。それで、アリス。何か気がついたの?」
「はい。改良できそうな点がいくつか。」
「あんたも、ありがとね。手伝ってくれて。」
「いえ。平気です。」
それから、アリスとアリッサはそれぞれ城内に戻り、思ったことを形にしてみることにした。それは、先ほどの店主との手伝いからアリスが気がついたことだった。
それは、効率を飛躍的に上げるだけでなく、積み下ろしについても楽をすることができる内容であった。
「アリッサさん。馬車って、後ろ向きに動けるんですよね?」
「あぁ。動けるが。」
「なら、この方法が使えそうです。」
アリスは、一つの方法を提案しアリッサの提案として、城内の交通に対し命令を出すように指示をしてもらった。それから数カ月後……
「アリッサ様。みてください。あんなにもめてた市場周辺が、活気で満ちています。」
「うん。アリスの言う通りにしてみたら、混雑せずにちゃんとできているようだ。」
「それにしても、あんな簡単なことで、こうも簡単に解決できてしまうなんて……」
「ところで、アリスは?」
「風にあたりたいということだったので、バルコニーに」
「そうか。本当に、この国にあやつと召喚して正解だったようだ」
「えぇ。」
その頃のアリスはというと、割り当てられた部屋のベランダから、遠くを眺めていた。そこには、中世ヨーロッパのような建築様式が立ち並んでいて、みているだけでも一枚の絵画のような街並みがそこにあった。
「一応。荷降ろしの場所を変えただけだったけど、意外に効果があってよかった。」
「この街を、開発するのか……」
綺麗な街並みを崩さずに、効率よく交通網が築けるかどうか不安になってきたアリスでもあった。
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