- 結城リノンが書きました。
- 2019年1月7日
- 読了時間: 7分
その後、部室に着くとようやく両脇のふたりが理央から離れる。それと同時に理央の腕には、二人に密着したおかげか程よい温かみが残っていた。そして、理央から離れたふたりは、なにかひそひそ話を始めていた。
『ここでする?』
『えっ?ここで?理央くんがいるのよ。いくら一瞬とはいえ。』
『サービスよ。サービス。こんなに強い新入生なんてそうそういないんだから。』
『はぁ。わかりました。仕方ないですね』
「あんたたち、なにしてるのよ?ひそひそ話して、また良からぬことを……」
「ちょうどいい所に、ここに立って?夕姫。」
「えっ?なに?」
「理央くんは、反対側に……そのまま見ててね。夕姫のこと。」
「えっ?は、はい。」
理央と夕姫は闘技場と同様に向き合う形で立つと、夕姫の横で何やら小声で話していた。
「パブリック・リリース」
「ちょっ!真弓!」
「?」
パブリックリリースとは、通常であれば更衣室などの設定されたエリアに入らなければ発動しないリリース機能(着替え)を、文字通り“パブリックスペース”で行えるコマンドである。
そのコマンドをよりによって、新入生で今日来たばかりの理央の前でやってしまったのだから、夕姫のショックは計り知れなかった。いくら一瞬とはいえ、肌色に近いナノスキンと下着だけになってしまうのだから……
「!!!!」
「あっ!」
一度制服スキンの状態から、形状を一度崩しボディースキンと下着スキンを維持したまま、ブレイザー用の闘技衣装に一瞬で切り替わるようになっていた。しかし、目の前に理央がいることで一瞬とはいえ理央の目には、水色のものが見えてしまっていた。
「見えちゃった、よね?」
「…………は、はい」
ガン!ガン!
両隣にいた真弓と環に程なく、げんこつが飛んだのは無理もなかった。そして、その後。真弓と環ももれなく理央の前で着替えさせられるハメになったのは言うまでもなかった。
「ちなみに、わたしは黒で、そっちは白ね?」
「っっっ!どうして言っちゃうんですか!あなたって人は。」
「だって、どうせさわたしと環のも見えちゃってるんだろうし……」
「そうですが……なにも、口に出さなくても……」
そんな言い合いしているふたりは、制服からブレイザー用の戦闘衣装になっていた。真弓は動きやすい姿のデザインで、リボンで止めたポニーテールはそのままに、ボディーラインをトレースしたスキンに、肩から腕にかけてふわりとした袖となっていた。
そして、腰には腕と同じ白のフレアのついたミニスカートとなっている。そして、そこから伸びる細く、それでいて女性らしいふくよかな足につけられた、ガーターリングが扇情的な情緒を匂わせていた。
それと対象的に、環は露出は極力少なくボディーラインをトレースするのは、真弓と一緒だが、環はへそ出しとハイソックス。そして裾の長いロングコートを羽織っていた。
「これが、わたしたちのブレイザー衣装ね。」
「真弓さんは、やっぱり。露出が……」
「やっぱり、可憐に舞わないとね。ブレイザーは」
「あなたが、派手すぎるだけです。」
「闘技場もあるし、模擬戦する?」
「また、あなたの相手ですかぁ。良いですが。」
「なにも本気のやり合いじゃないんだし、演舞よ。」
「はいはい。」
部室のとなりにしつらえてある闘技場とはあるが、夕姫が演舞を見せていた会場ほど大きくはなく、練習用の闘技場といった具合にこじんまりとした闘技場に鳴っていた。
Start Release!
専用デバイサーの起動コードを同時に発言すると、ふたりが持っていたデバイサーが光りだし、それぞれのオリジナルの武器へと切り替わっていく。闘技場内は特殊なエリアになっていることで、危ないということで理央は夕姫に連れられ、観戦エリアで観戦することになった。
ふたりの周囲に広がった光は、各々の手へと収束し武器の姿になっていく……真弓の手には西洋剣には近いものの、ところどころに切れ込みがはいっている剣の形になる。
環のもとには、その姿に似つかわしくないほどに、大きな鎌が形を成していた。鋭利研がれているような精巧な作りは、まさに舞い踊るにふさわしい大きさであった。その大きさに環はなれているようで、重さに反比例して軽々と動かして見せていた。
「すごい……」
「すごいでしょ?あの子達も、結構。学園内では優秀な部類に入るからね」
「なるほど……」
各々が装備と武器の展開が終わったところで、夕姫がゆっくりと立ち上がり、演舞の内容について話し始めた。
「ふたりとも、あくまでもこれは演舞。そのため、防具破壊のみで決着とする。」
「互いに切磋琢磨した結果を、転入生に見せて上げなさい!」
夕姫の宣誓の言葉に、共にニヤッとした真弓と環。互いに緊張した空気が流れる中でも、真弓は余裕なのか理央と視線を合わせれると、ニコッと笑顔を見せる余裕を見せていた。
「共に演舞とはいえ、手を抜かないように。各々、演武……開始!」
「行くわよ!」
「えぇ。」
ピー
見届人でもある夕姫の笛の音と共に、差し向かいになった真弓と環が戦闘をはじめる、持っているものも違えば互いの武器の種類も異なる。そのことに、理央は興味を示し始めていた。
幼少時の理央が扱っていたのは、ほとんど日本刀をモデルとした模造刀や木刀。竹刀などでトレーニングを行っていたため、西洋剣の戦い方そのものを知らない理央である。そのため、どのような戦い方をするのか、興味をそそられている理央だった。
すると、理央の想像を裏切る形で、真弓の西洋剣の動きが理央の知っているものとは、全く異なった動きをしていた。通常の剣の状態から動きの途中で、まっすぐの形状を失い、まるで蛇のように環の方へと飛んでいく。
そして、その流れを読んでいるかのように、環は器用に打ち返していく。それはもう舞い踊るかのように。そして、その攻撃を繰り出す真弓の方も同じように攻撃を繰り出している。
理央が目の前にしていたのは、それまでに見た闘技のどれとも似ても似つかないもので、それでいて、とても美しいきれいな演舞になっていた。
「どう?」
「なんというか。とても美しくて、綺麗です」
「でしょう。あの子達は、相当な腕の持ち主だし、それに、演武だけじゃないもの」
「そうなんですか?」
「真弓は花道から弓道など、ひと通り師範代クラスまで強くなってるわよ。」
「そんなにですか?」
「そう。それでも、剣技に関してはそこまででもないけどね。」
夕姫が真弓に関していろいろと説明している間も、演武は続きいよいよ決着がつきそうになっていた。
「どうして、そんなにあたしの後ろを狙うのよ!」
「いいでしょ!」
「まったく。あなたって人は!」
真弓が一方的に攻めたかと思うと、すきを突いて間合いを詰め数打攻撃を加える環。そして、近距離にいる環に対し強めの攻撃で遠くへ飛ばすという、一進一退の攻防になっていた。
そんな攻防が続くと、制限時間も無くなってきたため、各々が最後の大きな攻撃に打って出る。互いに防具もボロボロになってきた所で、次の一手で決着が着くことになった。
カキン!
防具の強度維持が限界の状態で、攻撃を受けたのか防具から悲鳴が聞こえだす。そこで、夕姫が立ち上がり……
「そこまで!」
「はぁはぁ」
「はぁ。」
互いに精も根も尽き果てたのか、立っているのがやっとのようで、両手を膝につき体を支えて、肩で荒い呼吸をしていた。そんなふたりの健闘ぶりに興奮した理央は、二人の元に駆け寄り、興奮した表情で言い寄っていた。
「真弓さん。環さんも。本当にすごかったです。」
「あ、ありがとう。」
「う、うん。」
あまりに疲れた様子になっているふたりを見た理央は、肩でも貸そうと手を伸ばし支えてあげようとします。しかし、理央の行動が反対に裏目に出てしまうことになります。
武装を制御しているのも、名のスキンを介した意識を保つことで、形状を維持している。そして、その意識が保つのが危うくなってくると、必然的に防御力も低下してくるために容易に、ナノスキン状態に戻ってしまうのである。
これをしならない理央は、意図せず環を支えるために強引ではあったものの、肩に手を伸ばし、彼女を支える形になった。それが彼女の思考回路を暴走する形になってしまい、防具の形状が維持できなくなってしまった……
「あっ。いま、支えられたら……」
「あっ。理央くん……」
「えっ?」
パリーン!
ガラスが割れるような音がしたあと、環が装備していた防具が一斉に壊れ、足元に崩れ落ちる。それはMR上のデータであるとはいえ、環の意思によって形状を維持していた物がなくなってしまい、その場から消滅してしまった。
それと同時に、ナノスキンの所までのデータがすっぽりと消滅してしまったのだった。つまり……
「あらら……」
「はぁ~。」
「!!!!!」
「えっ。あっ!ごめんなさい!」
好意で環の体を支えた理央だったが、その結果として防具の形状を維持できなくなった環の体は、ナノスキンのままの状態になってしまっていた。素っ裸に近いその姿は、下着を見られる以上に恥ずかしいことなのは、想像に難くなかった。
「ふんっ!」
バチーン!
環からのビンタが理央にクリーンヒットしたことは言うまでもなかった。