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  • 執筆者の写真: 結城リノンが書きました。
    結城リノンが書きました。
  • 2019年1月7日
  • 読了時間: 7分

 その後、部室に着くとようやく両脇のふたりが理央から離れる。それと同時に理央の腕には、二人に密着したおかげか程よい温かみが残っていた。そして、理央から離れたふたりは、なにかひそひそ話を始めていた。


『ここでする?』

『えっ?ここで?理央くんがいるのよ。いくら一瞬とはいえ。』

『サービスよ。サービス。こんなに強い新入生なんてそうそういないんだから。』

『はぁ。わかりました。仕方ないですね』

「あんたたち、なにしてるのよ?ひそひそ話して、また良からぬことを……」

「ちょうどいい所に、ここに立って?夕姫。」

「えっ?なに?」

「理央くんは、反対側に……そのまま見ててね。夕姫のこと。」

「えっ?は、はい。」


 理央と夕姫は闘技場と同様に向き合う形で立つと、夕姫の横で何やら小声で話していた。


「パブリック・リリース」

「ちょっ!真弓!」

「?」


 パブリックリリースとは、通常であれば更衣室などの設定されたエリアに入らなければ発動しないリリース機能(着替え)を、文字通り“パブリックスペース”で行えるコマンドである。


 そのコマンドをよりによって、新入生で今日来たばかりの理央の前でやってしまったのだから、夕姫のショックは計り知れなかった。いくら一瞬とはいえ、肌色に近いナノスキンと下着だけになってしまうのだから……


「!!!!」

「あっ!」


 一度制服スキンの状態から、形状を一度崩しボディースキンと下着スキンを維持したまま、ブレイザー用の闘技衣装に一瞬で切り替わるようになっていた。しかし、目の前に理央がいることで一瞬とはいえ理央の目には、水色のものが見えてしまっていた。


「見えちゃった、よね?」

「…………は、はい」


ガン!ガン!


 両隣にいた真弓と環に程なく、げんこつが飛んだのは無理もなかった。そして、その後。真弓と環ももれなく理央の前で着替えさせられるハメになったのは言うまでもなかった。


「ちなみに、わたしは黒で、そっちは白ね?」

「っっっ!どうして言っちゃうんですか!あなたって人は。」

「だって、どうせさわたしと環のも見えちゃってるんだろうし……」

「そうですが……なにも、口に出さなくても……」


 そんな言い合いしているふたりは、制服からブレイザー用の戦闘衣装になっていた。真弓は動きやすい姿のデザインで、リボンで止めたポニーテールはそのままに、ボディーラインをトレースしたスキンに、肩から腕にかけてふわりとした袖となっていた。


 そして、腰には腕と同じ白のフレアのついたミニスカートとなっている。そして、そこから伸びる細く、それでいて女性らしいふくよかな足につけられた、ガーターリングが扇情的な情緒を匂わせていた。


 それと対象的に、環は露出は極力少なくボディーラインをトレースするのは、真弓と一緒だが、環はへそ出しとハイソックス。そして裾の長いロングコートを羽織っていた。


「これが、わたしたちのブレイザー衣装ね。」

「真弓さんは、やっぱり。露出が……」

「やっぱり、可憐に舞わないとね。ブレイザーは」

「あなたが、派手すぎるだけです。」

「闘技場もあるし、模擬戦する?」

「また、あなたの相手ですかぁ。良いですが。」

「なにも本気のやり合いじゃないんだし、演舞よ。」

「はいはい。」


 部室のとなりにしつらえてある闘技場とはあるが、夕姫が演舞を見せていた会場ほど大きくはなく、練習用の闘技場といった具合にこじんまりとした闘技場に鳴っていた。


Start Release!


 専用デバイサーの起動コードを同時に発言すると、ふたりが持っていたデバイサーが光りだし、それぞれのオリジナルの武器へと切り替わっていく。闘技場内は特殊なエリアになっていることで、危ないということで理央は夕姫に連れられ、観戦エリアで観戦することになった。


 ふたりの周囲に広がった光は、各々の手へと収束し武器の姿になっていく……真弓の手には西洋剣には近いものの、ところどころに切れ込みがはいっている剣の形になる。


 環のもとには、その姿に似つかわしくないほどに、大きな鎌が形を成していた。鋭利研がれているような精巧な作りは、まさに舞い踊るにふさわしい大きさであった。その大きさに環はなれているようで、重さに反比例して軽々と動かして見せていた。


「すごい……」

「すごいでしょ?あの子達も、結構。学園内では優秀な部類に入るからね」

「なるほど……」


 各々が装備と武器の展開が終わったところで、夕姫がゆっくりと立ち上がり、演舞の内容について話し始めた。


「ふたりとも、あくまでもこれは演舞。そのため、防具破壊のみで決着とする。」

「互いに切磋琢磨した結果を、転入生に見せて上げなさい!」


 夕姫の宣誓の言葉に、共にニヤッとした真弓と環。互いに緊張した空気が流れる中でも、真弓は余裕なのか理央と視線を合わせれると、ニコッと笑顔を見せる余裕を見せていた。


「共に演舞とはいえ、手を抜かないように。各々、演武……開始!」

「行くわよ!」

「えぇ。」


ピー


 見届人でもある夕姫の笛の音と共に、差し向かいになった真弓と環が戦闘をはじめる、持っているものも違えば互いの武器の種類も異なる。そのことに、理央は興味を示し始めていた。


 幼少時の理央が扱っていたのは、ほとんど日本刀をモデルとした模造刀や木刀。竹刀などでトレーニングを行っていたため、西洋剣の戦い方そのものを知らない理央である。そのため、どのような戦い方をするのか、興味をそそられている理央だった。


 すると、理央の想像を裏切る形で、真弓の西洋剣の動きが理央の知っているものとは、全く異なった動きをしていた。通常の剣の状態から動きの途中で、まっすぐの形状を失い、まるで蛇のように環の方へと飛んでいく。


 そして、その流れを読んでいるかのように、環は器用に打ち返していく。それはもう舞い踊るかのように。そして、その攻撃を繰り出す真弓の方も同じように攻撃を繰り出している。


 理央が目の前にしていたのは、それまでに見た闘技のどれとも似ても似つかないもので、それでいて、とても美しいきれいな演舞になっていた。


「どう?」

「なんというか。とても美しくて、綺麗です」

「でしょう。あの子達は、相当な腕の持ち主だし、それに、演武だけじゃないもの」

「そうなんですか?」

「真弓は花道から弓道など、ひと通り師範代クラスまで強くなってるわよ。」

「そんなにですか?」

「そう。それでも、剣技に関してはそこまででもないけどね。」


 夕姫が真弓に関していろいろと説明している間も、演武は続きいよいよ決着がつきそうになっていた。


「どうして、そんなにあたしの後ろを狙うのよ!」

「いいでしょ!」

「まったく。あなたって人は!」


 真弓が一方的に攻めたかと思うと、すきを突いて間合いを詰め数打攻撃を加える環。そして、近距離にいる環に対し強めの攻撃で遠くへ飛ばすという、一進一退の攻防になっていた。


 そんな攻防が続くと、制限時間も無くなってきたため、各々が最後の大きな攻撃に打って出る。互いに防具もボロボロになってきた所で、次の一手で決着が着くことになった。


カキン!


 防具の強度維持が限界の状態で、攻撃を受けたのか防具から悲鳴が聞こえだす。そこで、夕姫が立ち上がり……


「そこまで!」

「はぁはぁ」

「はぁ。」


 互いに精も根も尽き果てたのか、立っているのがやっとのようで、両手を膝につき体を支えて、肩で荒い呼吸をしていた。そんなふたりの健闘ぶりに興奮した理央は、二人の元に駆け寄り、興奮した表情で言い寄っていた。


「真弓さん。環さんも。本当にすごかったです。」

「あ、ありがとう。」

「う、うん。」


 あまりに疲れた様子になっているふたりを見た理央は、肩でも貸そうと手を伸ばし支えてあげようとします。しかし、理央の行動が反対に裏目に出てしまうことになります。


 武装を制御しているのも、名のスキンを介した意識を保つことで、形状を維持している。そして、その意識が保つのが危うくなってくると、必然的に防御力も低下してくるために容易に、ナノスキン状態に戻ってしまうのである。


 これをしならない理央は、意図せず環を支えるために強引ではあったものの、肩に手を伸ばし、彼女を支える形になった。それが彼女の思考回路を暴走する形になってしまい、防具の形状が維持できなくなってしまった……


「あっ。いま、支えられたら……」

「あっ。理央くん……」

「えっ?」


パリーン!


 ガラスが割れるような音がしたあと、環が装備していた防具が一斉に壊れ、足元に崩れ落ちる。それはMR上のデータであるとはいえ、環の意思によって形状を維持していた物がなくなってしまい、その場から消滅してしまった。


 それと同時に、ナノスキンの所までのデータがすっぽりと消滅してしまったのだった。つまり……


「あらら……」

「はぁ~。」

「!!!!!」

「えっ。あっ!ごめんなさい!」


 好意で環の体を支えた理央だったが、その結果として防具の形状を維持できなくなった環の体は、ナノスキンのままの状態になってしまっていた。素っ裸に近いその姿は、下着を見られる以上に恥ずかしいことなのは、想像に難くなかった。


「ふんっ!」


バチーン!


 環からのビンタが理央にクリーンヒットしたことは言うまでもなかった。

  • 執筆者の写真: 結城リノンが書きました。
    結城リノンが書きました。
  • 2019年1月3日
  • 読了時間: 12分


 “高度に発展した技術は魔法と変わらない”


 かの有名な博士がこの名言を発してから数百年。MR技術で発展した世界は、劇的な変化をたどっていた。人々は自宅から出ることがなくなり、自宅に居ながらにして、すべての行動をすることができるようになっていた。


 すべての行動とは、仕事から買い物。アクティビティや旅行までもが自宅に居ながらにして、行えるようになっていた。そうして、怠惰を地で行くようになった人間が、辿った道はやはり。破壊の道だった。


 テロが横行し、破壊衝動に苛まれた人類はいつしか、現実で破壊衝動をはらすのではなく、仮想現実と現実の狭間のMRの空間へと奇妙な移行を果たしていた。


 それから数十年。


 学園で行う授業の形も様変わりを始めていた。ヘルム皇国のラクシュ学園の授業内容もMRに依存したものとなっていた。MRの技術を利用し、在宅での授業も可能だが、学園へと登校する光景はいくらシステムが発展しても変わらない日常であった。


 変わったものといえば……着替えが“一瞬で”終わってしまうこと。そのため、新しい服が販売されれば、購入を行い“データ”としてダウンロードすることになる。


 幼い少女にとっては、手軽に魔法少女の気分が味わえることや男の子にとっては、テレビで放映されるヒーローの姿に一瞬でなれるため、子供の頃からMRへと親しみを持てるようになっていた。


 ラクシュ学園に転入することになったエリオットは、父の影響か幼い頃から剣技のスキルを磨いてはいたが、MR技術に触れて以来。剣技からは離れてしまっていた。


「この学園にも、剣技があるんだ……」

『学園一の舞姫。高梨 夕姫(たかなし ゆき)』


 入学初日にもらったパンフレットを、見ながら物思いにふける理央(りお)は、部活説明会を点々とするものの、これと言ってピンとくる部活がなかった。幼い頃に剣技を触っていたこともあり、興味が湧いた理央は剣技の部活。ブレイザーの演舞を見に行った。


 大きな闘技場ではちょうど、夕姫が模擬戦を始めようとしていた。その姿は、正装なのか青を基調とした制服とは違い、腰に大きな赤いリボンと白いミニスカート、そして両腕にはフリルで装飾がされている。


 なによりも頭の高い位置で結ばれたツインテールは、見方によっては猫耳のような形になっている。そしてなによりも、両肩がでていることでより扇情的なデザインとなっていた……


『どうして、こんな格好で……恥ずかしい……』

「姫様~貴重な新入生獲得のチャンスですよ~」

「椀飯振舞(おうばんぶるまい)しちゃいましょう~」


 同じ部員の仲間なのか周囲からは、掛け声が飛び交っていた……その声とは裏腹に、張本人のシャルロットの表情は当たり前のように頬が高揚していた。しかし、その高揚もブレイザーのデバイスが起動するのと同時に、剣士のそれに変わる。


 夕姫のデバイスから伸びたブレイザーとしての武器は、西洋剣のようなシンメトリのきれいな武器でさほど長くなく、取り回しのいい武器であった。そして演舞が始まる。


シュッ!サッ!フッ!


 剣技をかじっていたからこそ分かる理央は、その会場に流れる雰囲気に心を揺さぶられていた。シーンとした広い闘技場に、演舞をするシャルロットの動きとともに、剣が風を切る音のみが響き渡っている。


 MRのデータ上の剣とはいえ、風を切る速度で動かすと、並の意識では形状を維持することすら難しい。 それが普通なのだがシャルロットの剣技はその域をゆうに超えていた。


「すごいわね~」

「きれいな演舞」


 ひとりだけで演舞しているために、相手の存在を仮定した上での演舞となっていた。そのためどこか演技のような感じにも見受けられる。そんな姿を見て、理央は、思い切って相手役を買って出ることにする。


「あの。お手合わせ、願えませんか?」

「あなたは?」

「新入生の理央です」

「理央くんね。剣技の嗜みは?」

「はい。幼い頃に両親から……」

「……。わ、わかったわ」


 どうやら、剣技部(ブレイザー)では、女子の生徒しかいないため、女子部と化していた。名義上は男子の募集もしていたが、夕姫の気合の演技を見た男子は入部することはなかった。そんな中で、理央が申し出ることになっていた。


「なに?あのこ。」

「お邪魔じゃない?」


 会場からは、夕姫の演舞の邪魔じゃないかと、いろいろとやじが飛んでいるが、夕姫が許可したということで観客も納得したようで、理央が差し向かいに立つ。


「デバイスは初めて?」

「はい。」

「強くイメージして。すると形になるから……」

「は、はい」


 そうして、理央が強く意識を集中させる。幼少の頃を思い出し、剣技を習ったあの頃を。すると、次第に光が収束しひとつの形をなしていく……その姿は、日本刀のような片刃の剣(つるぎ)の姿になった。


「それが君のブレイドってことね」

「西洋では見かけないけど、東洋ではそんなブレイドがあるってことは聞いたことがあるわ。」

『……これが。ぼくの……』

「あなたは、わたしの剣技を受け流してくれればいいわ。」

「は、はい。」

『……どうせ、そこまでの剣技はないだろうから……』


 昔の記憶を探りながら、夕姫の剣を受けるために、構えを始めたその姿を見たギャラリーは、一様に見たことのない光景にうわさを始めていた。


「なにあの構え。」

「そうよね、上半身がら空きよね」


 そんなギャラリーを他所に、夕姫は気がついてしまった……


『この子。ただ者ではないわ。全くスキがない!どういうこと?』

『こんな子が、新入生とか……』


 夕姫のその姿に、先ほどまでおだてていた同じ部員の人も夕姫のただならぬ雰囲気に驚いていた。


「あの夕姫が、たじろいでる?」

「えっ?あの新入生。そんなに強いの?」


 新入生に向けるための演舞が、理央の参加によって夕姫にしてみれば、自分より上位に近いものを相手にすることに等しくなっていた。それも、自分よりも年下のものに……


『なにを考えているの?私は、私は学園一のブレイザーよ。ブレイザーの鏡と言われているのに……』

『この程度のことに、たじろいでどうするの?』

「は~。いくわよ!」

「は、はい。」

「ふっ!」


 数メートル離れて差し向かいで向かい合っていた夕姫と理央。地面を蹴った夕姫は、あっという間に理央との距離を縮める。それは神風(かみかぜ)のように、そして、風が味方をしているかのように、重力を無視して理央に接近する。


 もう少しで衝突!といった刹那。理央の姿が二重になったような錯覚を覚える夕姫。そしてその直後。


キィィィィィィィン!


 会場の柱という柱が共鳴するような衝撃波が中心から広がる。その衝撃に見に来ていた観客は共に、両耳を塞ぐ。そして、夕姫本人もなにが起きたのがは、はっきりとは理解できてはいなかった。


 そして、理央の後ろに停止した夕姫は、驚きのあまりしばらく思考回路が停止していた。それもそのはず、受け流すだろうと思っていた夕姫だったが、あたったかのような感触が手元に伝わってきていたからである。


 そして、しばらくの沈黙のあと、会場からは始まる前のざわめきは嘘のように、あちらこちらから拍手が巻き起こり、その拍手は次第に会場全体に広がっていく……


 その拍手でようやく、夕姫が気がついて振り返ると、そこにはしっかりと立つ理央が立っている。明らかに刺してしまったと思っていた夕姫にとって、それは衝撃でいまいち理解ができていなかった。そして、夕姫が理央に近づいて行き、事の顛末を聞きに行くことになった。


「あなた。なにをしたの?」

「えっ?受け流しただけですよ?」

「いや。私からしたら、あなたにあたってたような気が……」

「ちゃんとよけましたよ。」

「でも……」


 そんなやりとりをしている、夕姫と理央の間に、割ってはいってきたのは、夕姫と同じ部活の生徒であった。


「ねぇねぇ。新入生。部に入らない。大歓迎するよ!」

「は、はぁ。」

「ほら、女性だけの部活だから、はいったらハーレム状態よ」

「ははは。」


 半ば強引に話に割り込んできたふたりは、共に学園の女子生徒で、夕姫のお付きのような存在感であった。それぞれ、いろいろな方法で理央を入部させようと、勧誘してきた。


「ねぇねぇ。全く動いていないように見えたけど、どうなってるの?あれ。」

「その形状の剣は、初めて見たわ。あとでじっくり見せて」


 あれやこれやと矢継ぎ早に質問攻めにあっている理央を他所に、夕姫は、不服そうな表情でその場を去っていった。その反面、理央を囲む二人の女子生徒の圧で、行動できない理央であった。


 理央の右腕側には、わざと胸が当たるように近くに座った真弓と左腕側には、右腕とは違った環の柔らかみと体温が伝わってきていた。


バン!


「ふたりとも!」

「えっ?なによ~」

「なんですか?夕姫。そんなに慌てて」

「新人にそんなにくっついて、帰られたらどうするのよ!」

「そんなこと無いよね?夕姫より強い子なんて、この学園にいなかったし……」

「そうです。まして、男子で夕姫より強い子は、あなたが初めてですから。」


 よっぽど、強い異性が現れたのが嬉しかったのか、両隣の真弓と環はほぼすでに理央に強い興味を示していた。


「ごめんなさいね。この学園。男子のブレイザーはいることはいるんだけど、弱くて。」

「そうよ、あなたが来るまで、夕姫が一番強かったのよ。」

「えぇ。現在の在校生徒の中で最強の夕姫だから、先輩たち辞めていっちゃったのよ。」

「えぇっ!」


 理央が怪訝な目で夕姫をを見つめていると、なんとも言えない表情になる夕姫は……


「し、しかたないじゃない。弱いんだから……」

「……それでね。先輩たちのプライドをボロボロにしたのよ。夕姫は……」

「そうよ。怒らせると、怖いわよ~シャルは」

「こら~ふたりとも……」


ヤ~


 煽るだけ煽ったふたりは、理央から離れると、駆け足で部室の外に逃げていった。


「まったく……あのふたりは……」

「ははは。」

「ほ、本気にしないでね。あのふたり、あなたをちゃかして、楽しんでるだけだからさ。」

「はい。」

「それで、あなたのブレイザーの形式だけど……」

「これですか?」


 模擬戦用のブレイザーの端末を出すと、真横に来たシャルロットはその端末を手に取ると、起動してみせた。すると、機械独特の音の後、刀身が出現した。


「あれ?ぼくのときと違う……」

「それはそうよ。起動した人のイマジネーション次第だから、端末もらってないよね。」

「端末?」

「この学園に入学すると、耳に掛けるタイプの端末。送られてきてなかった?」

「あぁ。」


 入学案内書が理央の元に届いた時、その封筒は、妙に重かった。その重い理由がこの端末が封筒の中に入っていたことにあった。そして、この端末には装着者のスキル・能力を計測しデータとして表示する機能がついていたが……


「あの……これ……」

「これは……」


 理央も同封されていた説明書の通りに設定をしていたが、不具合かその端末が破損してしまっていた。


「どうしてこうなるのかな?」

「ぼくもそう思って……」

「仕方ないわね……」


 そう言うと、夕姫は自分用に持っていた端末を、ひとつだけ理央に持ってきた。


「これ、わたしの予備だけど、男子がつけてもいいデザインだし……」

「良いんですか?」

「良いのよ、わたしはいまのがあるし……」

「ちょっとまってね~」

「な、なにを?」

「じっとしてて。この端末、独特の固定方法だから。」


 そう言うと、夕姫は理央の耳に近づくと、息の当たる距離まで近づき、しっかりと端末を固定させていた。理央からすると、パンフレットに載るくらいの美少女の夕姫から、直接耳につけてもらっているだけでなく、その息遣いが頬に伝わってくる……


『見てみて!』

『なになに?あっ!』

『うわぁ~キスしちゃいそう……』

『保存した。』

『メモリーに保存した。』


 この学園の端末では、装着者の見たものを共有する機能がついていて、それが生徒同士の端末の連絡網で、一斉共有されていた。そして……


えぇぇぇぇぇっ!


「なに?なに?」

「あっ!」


 部室の入り口から覗き込んでるふたりに気がついた夕姫と、ほぼ同時に起動完了した、端末に送られてきた画像に吹き出しそうになる理央だった。


「あ、あの。夕姫さん。これ……」

「えっ?はっ!」


 理央が見せた画像には、器用に理央の横顔に近づいて耳に装着する夕姫の口部分をハートで絶妙に隠していることで、いかにもキスしたかのように加工されていた。


 その画像が学園内サーバーで共有されていたのだから、学園の有名人でアイドルが新入生の理央とキスしているように見えるのだから、生徒が驚愕の声を上げるのも無理はなかった。


「夕姫さん?」

「わす……」

「わす?」

「忘れてぇぇぇぇぇ~」


 見たものを一発で共有できるこの時代では、一度広まるとそうそうに消えることはない。そして、発信元まで記録されることで、いかがわしいサイトは姿を消す結果となった。


 しかし、身内の間や学園などの公共の場の共有サーバーに上がってしまったものにかんしては、本人からの依頼での削除はあるが、個々に保存したものまでは、手が回らないのが事実だった。


 理央はは少し思ってしまっていた……夕姫の照れている顔が可愛く、もっとこのテレ顔を見ていたいと……


『……これ、保存しちゃだめかな?……』


 視線の右上にミニモニターみたいに表示されている場所には、視線選択と瞬きのアクションで選択できるようになっていて、その選択肢には“保存”と“削除”のふたつの選択肢が並んでいた。


『どうしよう……あっ!』


 保存するかしないかは本人次第ではあったが、理央が迷っている視線の先には、“保存しないで”と言わんばかりの表情をした夕姫の存在があった。


「は、はい。削除っと。」

「はぁ。良かった。でも……その画像があることで、入部してくれるなら……」

「い、いや。それは。だ、大丈夫です……よ。」

「良かったぁ~」


 安堵の表情をした夕姫に、微妙な気持ちになってしまった理央がそこにいた……


『実は、可愛かったから保存した……』

『なんて言えない……』


 その後、夕姫や環。真弓たちと一緒に学園内を案内される理央。両腕と正面をガッチリと固められた理央は、逃げ場を逃したうさぎのような状態になっていた。


「あの。ぼくはどこかに連行されるんでしょうか?」

「連行……ねぇ。」

「男子なら、一度はいきたい場所につれていく?」

「いきたい場所?」

「それは……」

「それは?」


 たっぷりと間を開けた真弓は、普通の女性であれば絶対連れて行かないであろう場所を想像しながら、これみよがしに想像力を掻き立てる視線で理央を見つめた真弓は……


「それは……ね。」

「連れ行かせないからね!」

「えぇ~」


 そんな三人のやりとりが続く中。両脇をわざとと言わんばかりに胸を当てながら移動していく理央。それからの三人は学園中を回って歩いた。


「女子更衣室と言っても、これ使っちゃえば一瞬なんだけどね。」

「そうよ。ほら。」

「ちょっと!」


 理央の右手側にいた真弓は、胸元をあえて指でふくらませると、そこからは素肌と紐のようなものが見えてしまっていた。


「あ、あの。見えちゃって……」

「はははっ。ありがとう」

「いえ。」

「これ、素肌に見えるでしょ?」

「えぇ。」

「それがね。違うのよ。」

「えっ?」


 確かにそこには、女性のその弱肌がそこにはあった。しかし、それは妙な光沢感がみうけられ、光が当たると微妙に反射をしていた。通常の素肌であれば、汗などをかいているのであれば、反射するのは分かるが理央のとなりにいる真弓からは、そのような素振りはまったくなかった。


「わたしたち、学園都市内で生まれ育ったわたしたちは、生まれつきナノスキンでコーティングされてるからね」

「ナノスキン?」

「そう。でも、感覚は生身と変わらないでしょ?ほら。」


 そう言って理央にあてがってくる胸からは、しっかりと彼女の体温が伝わってくる。しかし、そのスキン越しであることは触れ合っている段階では、全く気づくことができないほどに、精巧にできていた。


「だから、私としては、見られても素肌じゃないから平気といえば平気なのよね。」

「いや、平気なのは、あなただけだから……」

「そうかなぁ?地肌じゃないんだよ?」

「それは、あなたが露出狂なだけです。」

「えぇっ?それを言う?」

「わ、私はそこまで見せたいというわけでは……」


 三人の中としては、真弓が強引な感じで環がおとなしめで、それを夕姫が静止しているような位置づけになっていた。つまり、ボケとツッコミが器用にこの三人で成り立っていた。


 それからというもの、理央をいかに入部させるかを、女性陣があれこれと画策している姿に末恐ろしさを感じる理央であった。


 転入初日に学園一のブレイザーの夕姫と演武で出会ってから、あれよあれよと言う間に、色んな経験をしてしまった理央の、ブレイザーとしての日常が始まります。

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