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  • 執筆者の写真: 結城リノンが書きました。
    結城リノンが書きました。
  • 2019年1月7日
  • 読了時間: 6分

 夏穂本人も、兄に対してそこまでツンケンしたいからしているというわけではなく、微妙な距離感を掴みきれずにいる夏穂でもある。そのため、かほというイモチューバーを作ったのであった。


 自分に似た性格になるとはいえ、デフォルトで設定してあるクールな性格をベースとしていることで、リアルの自分とは違った自分を演じられていた。そのことで、兄との距離感を図りつつ、距離を縮めようとしていた。


「本当に、これでいいの?」

「い、いいのよ。」

「素直じゃないよね……あたしを作った主なのに……」

「なにが?」

「夏穂。翼のこと。好きでしょ。」

「は!はっ?な、なんで!」


 あからさまと言わんばかりの赤面具合に、かほも呆れ顔になってしまう。そもそも、夏穂と翼の出会いは、両親の再婚によって出会うことになった。


 夏穂母親は、旦那と死別し夏穂を育てるために、一生懸命に仕事をして養っていた。そして、たまたま入社した先で翼の父親と出会うことになる。翼の父親は奥さんを夏穂の母親は旦那に先立たれていた。


 同じ境遇に立っていたことで、より親近感を互いに覚えた両親たちは、再婚をすることを決意するが、その新婚旅行の道中に事故に会い亡くなってしまう……翼は高校に入ったばかり、夏穂は中学2年生と互いに両親を亡くすには早すぎる時期であった。


 双方の親戚たちは、全寮制で高度に発展して近未来的な学園都市となっていた条柴ヶ丘(じょうしばがおか)学園の全面的な支援に委ねることになった。支援と言っても、住居の確保はもちろんのこと、就業の自由なども確保される。


 学園都市としての支援は、それだけにとどまらない。義務教育すら終了してしまえば、ほぼ一生を恒久的に支援してくれることにある。社会貢献は必要とはなるが、生産活動に従事しなければいけないという義務もない。


 そのことから、一時期は堕落する住人が増えたが、時間をかけた対策によって堕落する住人はいなくなった。この学園都市では、誰もが誰かのために協力をしあっている良い循環システムが完成していた。


 そんな中で翼と夏穂は、すくすくと育ち翼は社会人となり、夏穂も卒業を果たした後に、小説家として活動している。


「じゃぁなに?その小説は。兄大好き妹のデレデレ小説じゃない!」

「はぁ!何いってんの!これは、純粋に私の思いを……」

「その思いこそが、兄への恋心なのよ!」

「……」


 自分の分身でもあるかほと夏穂の言い合いは、いつも夏穂の方がかほに正論を言われてだんまりしてしまう状況になっている。


「それに、夏穂。あなたが操作する時、感情を読み取る機能でわかるんだけどさ……」

「なによ……」

「あなた、兄の手に興味を示してるよね?」

「なっ!」

「それと、首元とか笑顔とか……」

「あーあー。聞こえなーい。」

「はぁ。感情の高ぶり具合が、尋常じゃないのよね。まったく……」


 夏穂は思春期が遅かったせいか、中学生や高校生の段階でも恋愛というものをしたことがなく、好意を持ったのは兄の翼だけであった。男性に興味がなかったというわけではなかったが、周囲の男性が幼すぎた事もあって、恋愛感情に至らなかったというのも事実であった。


 そんなこともあり、大人な自分を守ってくれている翼に対し、夏穂は兄以上の感情を抱くのに時間はかからなかった。最初こそその芽生え始めた感情に対して、あたふたしてしまったものの、高校を卒業後に小説に感情をぶつけることで発散していた。


 そうしているうちに、その小説がベスト兄萌え小説となり、夏穂は一躍有名人となってしまっていた。そして、そのことをなによりも喜んでくれたのは、他でもない兄の翼であった。


 献身的に支えてくれている兄の翼には、自分がまさかの兄萌え小説で人気がでたなどとは言え無いのはもちろんのこと、まさか兄をモデルにして書いていることなど言えるはずもなかった。


「それとさ、あの……」

「あによ……」

「視線で追いかけるのは勝手だけど……」

「操作中に、興奮されるとさ。こっちも影響受けるんだけど……」

「は、はぁ?いつあたしが興奮したのよ?」

「耳。かして……」

『翼の首みて、エッチなこと考えたでしょ?』

『はっ!はぁ?なっ!なんで……』

『こっちにも影響あるって言ったでしょ、キュンキュンしたのよ!』


 お互いがお互いのはずかしめをするという、なんとも言えない状況に陥ってしまっていた。幸いなのが、ここに中心人物の翼の存在が無いのが幸いであった。もしも、この場に翼の存在があれば、それこそ夏穂にとっての黒歴史になったことは、間違いなかった。


「あぁぁぁ。はずい。この想いを……」

「小説に!」

「そうよ、その意気。気持ちぶつけちゃったら?」

「そうする!」


 切り替えの早いのも夏穂のいい面でもある、スイッチが入るというかある種のゾーンに入ってしまうのである。しかし、その反面。一度入るとなかなかオフにならないのが難点でもある。


 前は、兄の翼が部屋に入ってきても気が付かず、声をかけても気が付かない。そしてかほが翼の反対側から呼びかけても気が付かないことから、翼とかほが強行作戦を立案したことがあった。


 私はプログラミングでできている。基本的なものは設定で割り振られるが、それ以外は、基本ベースになった人の記憶と感情を共有する仕様になっている。そして、ボディが組まれると、そこからは独自の判断をはじめる。


 プログラムとしては、思春期の前段階までのデータを元に組まれ、人格として形成されるが、それ以降はベースとなる人が操作するかしないかに寄って、心理的親和性が高くなっていく。


 私。かほは夏穂をベースとして組まれ、定期的に私を操作する夏穂。そのおかげか、親和性が高く。体のリンク度も必然的に高くなっていく。つまり。夏穂が翼を思うように、かほである私も翼に対する好意をいだき始めている。


「私は、肉体という実態はないんだよね……」

「歩いたりとか、疲れたりなどの感覚もないんだよな。」


 実態が無いプログラミングの状態のかほは、ホームサーバー内が部屋のようになっている。そこの全てがデータ上で部屋という環境を構築している。物体の質量もあれば、体重の感覚も存在する。


 しかし、デバイス越しに行動することになるかほは、意識こそサーバー内にあるが、感覚をリンクさせバーチャルからリアルを操作することになる。リアルで行動すれば、リアルの機器が動く。


 当然、ものを掴んだりなどの行動ができなければ、そもそも無理である。そのため、バーチャル空間にいるかほも、物理的には翼に触れることができてしまう。それに合わせ、夏穂の影響を受け好意を抱いてしまうと、比較的自由なかほは気軽に翼に触れることができてしまう。


『それは、やっちゃダメよね……』

『超えちゃいけないライン……』

「ここで、疲れて寝ている翼に、毛布をかけてあげることはできるけど……」

『ほっぺに……キスとか……はダメよね……』


 しかし、当のかほは夏穂の影響をダイレクトに受けてしまい、まるで自分が抱いた好意のように勘違いをしてしまっている。プログラム上の感情再現プログラムの延長線上のことなのか?それとも、本来の感情そのものなのかは、かほ本人も理解できずにいた。


 肉体という実体が無いからこそ、余計に境界が曖昧になってしまうかほ。そして、その感情や想いは、ベースとなる人物が操作を続けるほどに、より近しいものになっていく。


 同じように考え、同じように行動する単純なルーティーンのプログラムは、いつしか感情を抱き、ベースとなる人物が取れない行動を、取ってしまいそうになる。それは、ベースとなる人物が思い描く感情が、プログラムに意思をもたせてしまっていた。


『この気持は、かりそめ。“うそ”なはずなのに……』

『想いだけが……空回りする……』


 動き始めた想いが絡まり、いつしか雪のように積もっていく。その想いはプログラムの進化の途上なのか、それとも単なるエラーなのか。そして翼との関係は……

  • 執筆者の写真: 結城リノンが書きました。
    結城リノンが書きました。
  • 2019年1月7日
  • 読了時間: 4分

 技術的転換点に入った人類は、ある種の親和点を迎えた。ナノサイズで基盤を印刷できるようになったことで、有機ELを使ったモニターはコンタクトサイズになり、同時に通信端末と化した。


 コンタクトが苦手という人は、骨振動内蔵のメガネ型のウェアラブルデバイスが登場し、人々の生活を潤わせていた。


 MRの登場でリアルとバーチャルの境界線が曖昧になったことで、人々の生活はさらなる進化は果たすことになった。人々の生活は、飛躍的に向上し生活スタイルは別次元の物となっている。


 その日必要なものの買い物などは、その場でできるようになり、モールという概念がバーチャルのものとなり、必要なものが全てバーチャルで済むようになってきた。それでも、ひとつだけ変わらなかったものがある。


 それは、個人的なMR環境の構築である。パーソナルMR空間では、許可した人しかその環境を共有できないパーソナルMRスペースとなっている。そのことで、他の人には迷惑はかからないというシステムになっている。


「なにしてんの?おにぃ」

「いやね。妹に夜食でもっておもって……」

「えっ!、ほ、ほんと?」

「あ、いま。期待した?」

「べ。別に……」

「これは、リアルの妹のほうだから……」

「あぁ。そっか。」

「あからさまに、ガッカリするんじゃないよ。」

「べ。別に。がっかりしてないし……」


 彼女は、かほで妹系Vtuber。つまり、イモチューバーと言うやつである。見た目もアレンジが可能で、かほは身長と銀髪こそ翼の妹の夏穂と似てはいたが、夏穂とは異なり、クールタイプで妹のそれとは全く異なっていた。


 Vtuberの登場から数年経ったこの頃は、手軽に自分の分身としてVtuberシステムを使うようになっていた。分身という位置づけではあるが、常にというわけではなく、それ以外は人格解析によって組み上げられたAIが、分身を操作する。


 その時の記憶や行動履歴は、しっかりと情報データとして、本体となる個人へと通信履歴が残るようになっている。そして、視覚データも共有されることで、視覚の端にアバターとしてのVtuberの視野が表示されるようになっている。


 操作しない状態にする時に、基本行動はAIが行うが重要な判断に関しては、選択項目が出ることもあるが、ほとんどの人がAIの判断に任せる事が多くなっている。そのことで、リアルとMR上のアバターとしての位置づけのVtuberとなっている。


 そして、このパーソナルMR領域は、パーソナルという名前だけあってパスワードによって、認証されない限り共有されないようになっている。そんな翼(つばさ)のリアルの妹は、自室で宿題をしているらしい……


 ツンツンの妹。夏穂(なつほ)は、学校に行く傍ら、小説を書いているらしいが、よほど恥ずかしいらしく、兄の翼は一歩たりとも夏穂の部屋に入ったことすらなかった。そのため、決まって夜食などは部屋の前に置いて合図をするのが決まりとなっている。


「相変わらず。相手してくれないの?リアルの妹。」

「まぁ。忙しいんじゃない?かまってほしくないときもあるさ。」

「にいさん……」

「どうした?珍しい反応もするもんだな。」

「は、はぁ?き、気の所為じゃない?」


 夏穂の夜食の支度を終えた翼は、二階の角部屋にある妹の部屋へと向かう。そんな時も、かほはついてくることが多くあり、翼の周りはいつも妹的な存在がそばにいる事になっている。


 しかし、この時はちがって、リビングルームに待っているということだったので、翼は不思議には思ったものの、そのまま夏穂の部屋へと向かった。夏穂の部屋をノックはするが、きまって応答なしなのがこれまでの当たり前だった。しかし……


コンコン!


『まぁ。出てこないよなぁ~夢中になってるだろうし……』


がちゃ!キィィィィ。


『えっ?』

「あ、ありがと。にいに。」


 久しぶりにみた夏穂の姿は、抱きしめるとすっぽりと腕の中に収まってしまいそうな体に、きれいな銀髪が肩まで伸びている。いかにも“妹”を地で行くようなかわいい妹である。


「あ、あれ。ど、どうした?きょうは。」

「い、いや。たまに。さ……」

「あ、あのさ、夏穂。夢中になるの良いけど……」


 久しぶりに見た夏穂の可愛さと、兄として心配する気持ちが空回りし、どこぞの不審者の用になってしまう翼。当然、警戒してしまう夏穂。こんなやりとりが数年続いていた。


「あ、あぁ。ごめん。程々に頑張ってくれ。じゃぁ」

「…………」

「にぃ……」

「えっ?」


 気を使い立ち去ろうとした翼の背中に向けて、かすれるような言葉が夏穂から、聞こえてくる……


「に、にぃにも。ちゃんと。や、やすんでね」


ばたん!


 そういって、めずらしく兄の翼と対面した夏穂は、用意された夜食を持っていくと、あっという間に扉を閉めて、部屋にこもってしまう。そうして、次の日にはしっかりとキッチンに洗ってある食器が並べられているのである。


 引っ込み思案な妹の夏穂ではあるが、さりげない所でしっかりとしている翼の自慢の妹でもある。そんな妹の夏穂にも、秘密があって……


『にぃに……』


 そんな、なんだかんだで仲のいい兄妹とバーチャルのイモチューバーの日常が始まります。

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