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Re:強欲の魔女と変革の未来 第一話 憑依と好奇心

  • 執筆者の写真: 結城リノンが書きました。
    結城リノンが書きました。
  • 2019年1月7日
  • 読了時間: 7分

 墓所の手入れをしていたエレノアは、不思議な声を聞いたあとに煙に包まれ、次の瞬間には、いままでとは違った自分の姿となっていた。


『えっ?どういうことなの?』


 違った所というのが、身長がが数センチ伸び足も長くなった他にも、一番の違いが全体的にサイズが大きくなっていたことだった。それは、エレノアが憧れ続けたエキドナの姿に瓜二つだった。


「う~ん。体を借りたとはいえ、久しぶりの外は良いわね~」

「ちょっと。服はキツイけど……」


 大人のエキドナが学園の制服を着てはいるものの、サイズそのものはエレノアのサイズのため、やはりどこか窮屈になってしまう。共学ではあるもののもともとお嬢様学園ということもあり、制服のデザインはそれなりにこだわって作られている。


 歴史書のエキドナを学園の象徴としていることで、その学園の制服もエキドナのシルエットを意識した制服になっている。女性らしい曲線を活かしたまま、所々にベルトのアクセントと、白いブラウスが特徴的となっている。


 そして、フリルをふんだんに使ったスカートは風の流れを表現していて、ミニスカートとガーターリングでオシャレなデザインとなっている。


『ちょっと!どうなってるの?』

「頭の中でガミガミしないの。」

『えっ?だれが私の中に入ってるの?』

「えぇ。さっき言ったでしょ?ボクに貸してって」

「それに、ボクと親和性が高いみたいだし……」

『えっ?ボク。でも胸もあるしそれに……』

「まだ気がついてないの?」

「ボクだよ。エキドナ。」

『エキドナって、あの?歴史書の?』

「だれだと思ってたの?」


 エレノアにとって憧れてはいたものの、まさかそのエキドナに自分がなってしまうとは、思いもよらなかった。


「どうしたら信じるかなぁ。あっ。」

『私の体が勝手に動いてる……』


 近くに噴水を見つけたエキドナは、姿を見せて納得してもらおうと、なれない体でゆっくりと歩き出す。しかし、制服のひらひら感になれないのか、どうしても大股で歩いてしまう。


『そんなに大股で歩かないで!』

「しかたないでしょ、この姿になれてないんだから……」

「ほら、これでわかった?」

『えっ!』


 噴水の縁までたどり着いたエキドナは、長い手足を曲げて自分の姿を見せた。水面に映る長く綺麗な銀髪は、エレノアの時の肩までの長さとは異なり、腰まで伸びる長い銀髪は、エキドナを象徴する髪でもあった。


『えぇぇぇぇぇぇ!』

「頭の中で叫ばない!」

『あぁ。すみません。」

『本当に、エキドナ様なんですね。』

「そうよ。それにしても、この制服……キツイわね。」


 エレノアのスタイルに合わせて調整された制服は、エキドナにとっては窮屈でそれに大切な長さそのものが足りていなかった。少し歩くだけでも見えてしまいそうなほどのミニスカートと胸元ははちきれんばかりに膨らんでいた。


「最近の流行りはこんな服なのね。」

『キャー!。エキドナさま。回らないでくだい。見えてしまいますから。』

「あぁ、そっか。動きやすくていいと思うけど……」

『はぁ。危ないあぶない。』


 軽くエキドナが動いては見たものの、スカートそのものはエキドナの下半身をまるっきり隠しきれていなかった。それに、エキドナの豊満をボタンがかろうじてホールドしていた。


「これ、大きくしていい?」

『えっ?換えの服って無いですよ?』

「いいのよ、これで済むから……」

『えっ?』


パチッ!


 エキドナが小気味よく指をならすと、胸の部分は多少余裕ができ、スカートは違和感のない長さに調整された。


「うん。これで、一安心。」

『あれ?制服伸びてる?』

「魔力使って調整したわ。さすがに落ち着かないし……」

『なるほど……』

「それに……あれ。なに?」


 怪訝な表情をするエキドナの視線の先には、ふたつ並んだ墓所があった。そこには、エキドナの名前とロズワルドの名前があった……エキドナにとってはストーカー的な存在で、そばに置かれても困るだけであった。


「なんで、ここにロズワルドの墓所があるのよ!」

『なんでって、仲良く添い遂げたと、習いましたけど……』

「はぁ!なんでアイツと?」

「しつこいしか無いのに?」

『歴史では、そうなってますけど……』


 どうも納得できないエキドナは、歴史を確かめるために学園へと足を向ける。しかし、学園の生徒ではない上に容姿こそエキドナなものの、生徒としては登録されていないため、教師に見つかると否応無しに注目を浴びてしまう。


「書庫とかある?この学園。」

『ありますけど……まさか。』

「まさかよ。調べるに決まってるじゃない!どうして、ロズワルドと一緒なのか!」

『ちょっとまって、その姿のままいっちゃうの?』


 エレノアの静止を他所に、ずいずいと校舎を進むエキドナ。そんなエキドナの目には、肉体があった頃とは全く違う光景が目の前に広がっていた。魔術はあくまでもシステムのひとつとして、社会を構成していた。


 そして、書庫へとたどり着く手前に教師から声をかけられることになった。エキドナは制服を着てはいるものの、姿は大人のため生徒と言うにはいささか問題があった。


「そこの貴方。どこのクラス?」

「わたしですか?」

「そんな長い髪をして……」

「は、はぁ。」

「ほら、これ。貸してあげますから。せめてひとつにまとめなさい。」

「は~い。」


 せっかく外に出てきて早々にくじけたくないエキドナは、なんとか体裁を繕うと事なきを得た。


「いつの時代も、先生というのはしつこいのね」

「まぁ、いいわ。さっさと書庫に行って確かめないと……」


 この街では、警備にも魔術が使われることもある。それは、魔術による蔵書の損壊を防止する観点から、魔術結界が書庫の入り口に存在する。当然この学院の書庫にも魔力結界がなされている。


バチッ!


「いたっ!」

『大丈夫ですか?エキドナ様。』

「さま付けはいらないから、これ教えて。どうなってるの?」

『魔力結界です。管理者しか解除できないように……』

「へぇ~。こんなの……ボクにかかれば……」

『そんな、無理ですよ。何重にも結界が……』


パリーン!


 エレノアの杞憂を他所に、あっさりと魔力結界をあっという間に解除してしまうエキドナ。そうして、あっさりと書庫の扉を開けると、二万以上もある蔵書の山が目の前に広がる。


「おぉ。これくらいあるのなら、すぐに分かりそうだ。」

『こんなに簡単に、入れちゃうなんて……』


 このエキドナの行動が、あっという間に学園長の耳に届いたのは言うまでもなかった。学園長から職員たちが集まって大騒ぎになっていた。


「学園長!この履歴みました?書庫のアクセス履歴なのですが。」

「なに?」

「ここをみてください。」

「なになに。はっ?」


 職員たちが驚くのも無理はなかった、結界を解除するためには認証が必要になってくることで、自然と魔力を使った人が履歴として残る様になっていた。つまり、履歴の欄にエキドナが解錠したことが、履歴欄に残ってしまっていた。


「エキドナって、あの人しかいませんよね?」

「いやぁ、ありえんだろう。だって、墓の中だろう。化けてでたとでも?」

「現に、結界を解除した履歴がしっかりと……」

「確認に行きますか?」

「様子をみてみよう。今後もこの履歴が出るようなら、調査が必要になるだろうから」

「わかりました。」


 学園の職員たちが、対策をあぐねているそのころ。書庫で歴史について探していたエキドナは、対象の書籍にたどり着きその歴史に衝撃を受けていた。


「はぁ!どうしてボクが!」

『でしょ。少なくても私が教わった教科書では、そういう歴史になってますから』

「それに、どうして熱烈アタックに根負けしたことになってるのよ!」

『違うんですか?』

「違うもなにも、全くのねつ造よ!」


 憤りを覚えたエキドナは、行動に移そうとしますが、そもそもどこから手をつけて良いのかわからないのも、事実だった。そんな中、書庫の中で興味をそそられるものを見つけてしまった。


「なにこれ!」

『なにを?あぁ。それですか?蒸気機関ですね。魔力瓶との併用で……』

「私がいないうちにどんなに進化してるの。」

『おそらく、右ポケットに入ってますよ。』

「えっ?あっ。これ、なに?」


 エキドナがポケットから取り出したものは、電力を魔力地(まりきち)を内蔵した通信端末で、遠距離通信を可能としている。その他にも、手軽に通信できたり外を普通に乗用車などが走っていた。


「どんな原理で動いてるの?あれ。」

「それに、これ。どうなってるんだ?」


 約800年の間、墓所の中にいたエキドナにとって、地上の発展は目まぐるしく、好奇心旺盛のエキドナにとって、興味をそそられるもので世界は溢れかえっていた。


「…………」

『どうしたんですか?』

「街を見て回りたいんだが、良いかな?」


 窓に映る鏡越しに会話をするという、周囲の人から怪しまれてしまいそうな光景ではあるが、エキドナとエレノアの間で器用に会話が成立していた。ロズワルドと添い遂げた歴史など、ありえないと思っているエキドナ。


 それに合わせ、久しぶりに地上にでたエキドナにとって、歴史をもとに戻すのと同様に重要な事ができてしまった。800年間の間に発展した技術にも興味をそそられるエキドナであった。

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