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ぼっちと粉雪の温かさ 第一話 新たなトライとアクシデント

  • 執筆者の写真: 結城リノンが書きました。
    結城リノンが書きました。
  • 2019年1月7日
  • 読了時間: 5分

 翌日。つかさは、痛みが引き歩くことができるようになった足で、なんとか食堂まで降りてきて、食事をしていた。


「あのひと。スキーをしてたなぁ~」


 ようやく移動できる様になったことで、彼の様子を思い描いていたつかさは、彼が自分と違うスキーでゲレンデを滑走していたことに気がつく。そして、彼に近づきたい一心で、彼の使っていたスキーにトライしてみることを思いつくつかさであった。


「スキーかぁ。両足離れてるのがなぁ~。」


 スノーボードにしか乗ったことのないつかさにとっては、両足が離れているだけでも不安になってしまう。両足固定されているスノーボードであれば、両足を同時に動かせばいいから楽ではあるものの、スキーとなるとそうはいかない。


 両足でふたつの板の上にのるからこその、あのきれいな滑走を描けている。その点スノーボードは、大きな板に両足でのることで、同時に動かしたり前後に体重移動することで向きを変える。


 しかし、スキーほどに小回りがきかないため、とっさに避ける事ができないことがある。その結果として、つかさは大転倒をしてしまい足をくじくという状況になっていた。


「あの人も、スキーで滑れているんだから。あたしも……」

「やったことはないけど……」


 彼に出会ってからというもの、彼への興味の延長線として、彼と同じスキーへの興味の割合も増えてきていた。それは、不純な意味合いもあるかもしれないが、やってみたいという意思には変わりなかった。


「歩けはするけど……まだゲレンデに出るのはなぁ~」

「いくら年末年始休暇とはえ、怪我をしてずっと休んでました。じゃ、シャレにならないものね」


 そんなつかさは、足もほどほどに治ってきたこともあり、意を決してレンタルスキーを借りてトライしてみることにした。それまで、スノーボード一筋だったつかさであったが、彼に近づきたい一心でスキーへとトライすることとなった。


「いざ。借りてはみたものの……」

「滑って前に進まない……」


 スノーボードとは違い、両足に板がつくスキーは片方を外して進むスノーボードとは異なり、真っ直ぐ進むことすらままならない。滑るためにできているのだから、まっすぐ歩こうとしても、進まないのは当然のことである。


「やっぱり、無理だったのかなぁ~」

「おあっ!っととと。油断すると、転びそうになる。ただでさえ治りたてなのに……」


 初心者丸出しの悪戦苦闘しているつかさに、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ?今日は。ボードじゃないんですか?」


 その声のする方へ振り返ろうと、身をよじらせるとスキー板に変な力がかかったのか、バランスを崩してしまうつかさ。


「あぁわわぁわ」


ドシーン!


 かかとが固定されていたことが幸いして、炒めた足をぐねることがなく、スキー板の上に体育座りをする形でつかさは、座り込んでしまった。


「いたたた。」

「すみません。急に声をかけてしまって……」

「ほんとですよ……って、あなたは。」


 そこには、怪我をしてから数日後に食堂で挨拶をしてくれた人が、そこにいた。いつもナイターに行く時にしか出会っていなかったこともあり、日中から出会うことになるとは思ってもみなかったつかさであった。


「そういえば、名乗ってなかったですね。私は、松雪といいます。」

「松雪さんっていうんですね。偶然ですね。私も“雪”の字が入るんですよ。」

「そうなんですか?奇遇ですね。」

「はい。私は、西雪(にしゆき)と言うんですよ。」

「へぇ。西雪さんですか。」


 それから、つかさと松雪は他愛もなことを話して、屈託のない松雪の姿に、つかさの目覚め始めた乙女回路がビンビンに反応しはじめていました。幸いなことに、松雪も、スキーをしていたことで話はトントン拍子に進み、マンツーマンで教えてもらう事になった。


「本当に良いんですか?わたし。初心者ですよ?」

「いいんです。どうせひとりですし。それに……」

「だれかと一緒に滑ったほうが、断然。楽しいですから。」


 それから、松雪とふたりでスキーの練習をすることになったつかさは、進み方から止まり方まで、手取り足取り丁寧に教えてくれる松雪に、次第に好意を寄せてしまうのです。


『なにドキドキしてるの?この練習は、あの時助けてもらった人の為に……』

『より上達して、あの人と一緒に滑るために……』


 つかさは、スキーを始めたきっかけともなるナイターのあの人と、一緒に滑ることを目標に特訓をしていることを、うっかり忘れそうになるくらい、松雪との練習が楽しくなってしまっていた。


 そして、そのことを振り払おうと、首を振ったその直後、バランスを崩して倒れ込みそうになってしまうつかさ。


「あれ。あわっ!」

「西雪さん!危ない!」


ガバッ!


「うぅぅぅぅぅぅ。」

「大丈夫ですか?西雪さん。」

『あ。あれ?わたし転んで……』

「えぇぇっ!」


 松雪と向かい合って練習していたのが幸いし、バランスを崩したつかさを、松雪が抱きしめる形で、受け止めていた。ちょうど、松雪の足の間につかさのスキー板が滑り込み、ちょうど両脇を抱えられるようにつかさは抱きかかえられていた。


 耳元で聞こえる松雪の息遣いと、心配する声。そしてウェア越しでも分かる松雪の鼓動や温かな体温。そして、男性ならではのしっかりとした骨格が感じ取れるほどの距離でつかさは密着していた。


「あ、あの~」

「慌てないで」

「は、はい。」

「慌てて立つと、転んじゃうから。」


 耳元に伝わる松雪の言葉は、心配してくれる言葉の影に、しっかりとした優しさも感じる温かくなる言葉だった。


『あぁ。どうしよう。』

『このまま……』

『いや!なに考えてるの、わたしは』

『彼の為に練習してるのに……』


 つかさの考えとは裏腹に、体はしっかりと松雪をつかまえて離さなくなってしまっていた。しばらくの間、松雪にしがみついていたことで、不思議に思ったのか……


「あの。大丈夫ですか?」

「あ、はっ、はい。いま、立ち上がりますね。」


 悶々と考えてしまっていたつかさは、松雪の声でふと我に返ったのだった。ふらつく足元をなんとか立て直すと、しっかりと安定させたつかさであった。


「疲れてしまいました?西雪さん……」

「い、いえ。大丈夫ですよ?」


 楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、つかさが時計を確認するとゆうに昼を過ぎていることに気がついた、つかさと松雪。ヒュッテに一度帰り、ミーティングがてら昼食をとるふたりだった。

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